
「まずは自分の手の届く範囲の人たちを大事にしたい」
――職人と経営者、二つの顔を持つ『Hair Room Donico』が大切にする“丁寧な商売”
Hair Room Donico 代表 中村良太さん
――まず、美容師を目指されたキッカケを教えてください。
私は大阪で生まれて、宮崎で育ちました。
小さい頃から「ものづくり」に興味があり、絵を熱心に描いたりするこどもでした。
小学校3年生のときに大阪へ戻ってきましたが、高校を卒業してからすぐは、好きな絵を描いたりしながら、1年くらいプラプラしてました。
そろそろ将来のことについて「真剣に考えないとなぁ」と思い始めた頃に、知り合いの美容師さんに「ヘアショー」に連れて行ってもらったのが、美容業界に関わることになったキッカケになります。
そのときに感じたのは、美容というお仕事は、単に髪を切るだけじゃなく、人を変えることのできる仕事なんだと。そこから、真剣に美容の道に進もうと思い、大阪美容専門学校に入学しました。
――美容師としては、どれくらい経験を積まれてきたのですか。
美容師としては、すでに20年を超えています。
専門学校卒業後、地元サロンに勤めましたが、やりがいを感じる一方で、人間関係の難しさもありました。美容の仕事は好きでしたが、組織のなかで働くことにしんどさを感じることもあり、それなら自分でやってみようと思い始めます。もともと独立心が強い性格なんだと思います。
それで、2014年に独立起業し、「Hair Room Donico」を白鷺駅前にオープンしました。
――独立してからは、どのようなお店づくりを意識されてきましたか。
うちは基本的に、すべてのお客様にマンツーマンで対応しています。
大型店のようにたくさんのお客様を同時に回すというよりも、一人ひとりにきちんと向き合い、丁寧に仕事をするが私の性格には合っていますし、それを望まれるお客様がうちのファンになってくださっています。お客様の9割は女性ですね。
自分の手の届く範囲で、丁寧な仕事をし、ちゃんと喜んでもらえる商売をしたいと考えています。お客様と話をしながら、自分の仕事を通してお客様が変わっていかれるのを直に感じられるのは、とてもやりがいを感じます。
やはり美容は「ものづくり」に近い部分があって、自分には天職のように感じています。
仕事は楽しいですし、その仕事のついでにお客様に喜んでもらえる、そのついでに自分も生活させてもらえる。そんな贅沢な循環のなかで商売が続けられていることは、とても幸運なことだと思っています。
――中村さんのお店の強みは、どんなところにありますか。
髪や、それに合うシャンプーの知識が豊富というのはありますが、特にカラーはめちゃくちゃ早いと思います。
ただ、技術だけで差別化するのは、正直なかなか難しい時代です。
美容師はみんな一生懸命に技術を磨いていますし、お客様から見ると違いがわかりにくい部分もあります。
だからこそ、技術だけではなく、どうお客様と関係をつくるか、どう安心して通ってもらえるかを大事にしています。

――オリジナルシャンプーの開発や、シャンプーについての研究などもされているんですね。
はい。オリジナルシャンプーをつくったり、「シャンプー研究所」という形で情報発信もしています。
美容師の仕事は、カットやカラーをするだけではありません。髪や頭皮のこと、毎日のケアのことまで含めて、お客様の暮らしに関わる仕事だと思っています。
自分のお店に来てもらう時間だけではなく、家に帰ってからも髪が扱いやすくなったり、少し気持ちが楽になったりする。そういうところまで役に立てたらいいなと思っています。
――集客についても、かなり勉強されたそうですね。
ネットで「サロン集客」を教えてもらいました。
美容室の集客というと、今でもネット媒体に頼るところが多いと思います。
もちろん、それで新規のお客様は来ます。ただ、毎月何十万という費用がかかることもありますし、お金をかけたほうが有利になりやすい、つまり大手が得をする仕組みでもあります。
そして、媒体だけではリピーターになりにくいんです。結局、お金だけを吸い上げられてしまうような感覚もあって、美容師さんが従業員を雇えない理由の一つにもなっていると思います。
――そうした仕組みに疑問を感じられたのですね。
そうですね。
自分で考えて、自分で集客できるようにならないといけないと思いました。
同じネット広告でも、媒体に頼らず、自分で広告出稿するほうが、費用は10分の1くらいで済むこともあります。もちろん広告だけでうまくいくわけではありませんが、考え方を変えるだけで、経営はかなり変わります。
美容師は技術職ですが、独立すると経営者でもあります。
その両方をやらないといけないところが難しいところですよね。
――「職人としての自分」と「経営者としての自分」の両方があるということですね。
まさにそうです。職人としては、お客様に寄り添いたい。
できるだけ喜んでもらいたいし、無理なことはしたくない。
けれど、経営者としては売上や利益も考えないといけません。
ただ、私自身も経営者である以前に、一人の生活者です。だから、お客様の気持ちに寄り添いすぎてしまうところもあります。物価が上がっているからといって、価格を簡単に上げることができない。そこはいつも難しいところです。
――今の美容業界で大変だと感じることはありますか。
やっぱり、美容師が独り立ちしにくい時代になっていることですね。
集客にもお金がかかりますし、材料費も上がっています。スタッフを雇おうと思っても、そのためには安定した売上が必要です。でも、そこまで持っていくのが簡単ではありません。
自分自身も、売上をどんどん大きくしたいというよりは、まずは手の届く範囲の人たちを守れるくらいの売上があればいいと思っています。あまり大きな欲はないんです。
――お客様との関係では、どんなことを大切にされていますか。
「このお店を潰したくない」と思ってくれるお客様がいることは、本当にありがたいです。
美容室は、技術だけで選ばれる場所ではないと思っています。もちろん技術は大事ですが、それ以上に、安心して通えるかどうか。その人にとって、日常のなかで必要な場所になれるかどうかが大事なんです。
だから私は、マンツーマンで一人ひとりのお客様と向き合うことを大事にしています。
――仕事をするうえで、中村さんの原動力になっているものは何ですか。
難しい質問ですが、「人助けをしたい」という気持ちはあります。
大げさなことではなくて、目の前の人がちょっと楽になったり、気分が良くなったりする。その手助けができたらいいなと思っています。
美容師の仕事は、髪を整える仕事ですが、気持ちを整える仕事でもあると思うんです。そういう意味では、自分にとって仕事そのものが、人の役に立つ手段になっています。
――ちなみに、お休みの日はどのように過ごされていますか。
身体を動かすのも好きで、テニスをしています。
初芝体育館のサークルで、6時間くらいやることも(笑)
体を動かすと気分転換になりますし、仕事とはまた違う集中ができるので、自分には合っています。
また家庭も大事にしています。
仕事も楽しいですが、生活が基盤です。そこを切り離さずに考えているところはありますね。
――最後に、これからのHair Room Donicoについてお聞かせください。
今のお店を、必要としてくれるお客様のために続けていきたいです。
大きく広げたいというよりも、まずは自分の手の届く範囲の人たちを大事にしたい。髪のことで困っている人、集客や経営で悩んでいる美容師さん、そういう人たちの力にもなれたらと思っています。
美容師としての自分と、経営者としての自分。その両方を大事にしながら、これからも無理なく、でもきちんと続けていきたいですね。
